世界最古の文学として名高いのが、メソポタミアの『ギルガメシュ叙事詩』です。現在知られている形に完成したのは紀元前7世紀のことですが、物語そのものはシュメール時代に誕生し、紀元前2000年ごろから断片的に書き記されていました。
主人公のギルガメシュは実在したウルクの王です。彼は世界ではじめて文学に登場した人物でした。
『ギルガメシュ叙事詩』には、旧約聖書の「ノアの箱船」とよく似たエピソードがでてきます。実はこのエピソードは誕生した当初の『ギルガメシュ叙事詩』には含まれていませんでした。オリエント各地に存在した洪水物語が、どこかの時点で物語にとり入れられたわけですが、その理由は私たちにもよく理解できます。メソポタミア南部は絶えず洪水に見まわれていました。そのたびに人びとの暮らしを支える灌漑設備が大きな被害を受けたことはまちがいありません。そうした洪水に対する不安と恐怖の中から、シュメールの宗教を理解する鍵ともいわれる、悲観的な運命論がはぐくまれていったのです。
『ギルガメシュ叙事詩』の物語も、そうした暗いムードにつらぬかれています。ギルガメシュは神々によって死ぬべきことが定められた人間の運命に抵抗し、永遠の生命をさがし求めます。しかし、最後には死が避けられないものであることをさとり、その運命を受け入れるのです。
英雄も賢者も、満ちたあとはただ欠ける時を待つ。それは新月と同じ。人びとはいうだろう。「彼のように力強く支配したものは、ほかにはいなかった」と。まるで暗い月のように、陰に入った月のように、彼のいない世界に光はささない。ああ、ギルガメシュ、これこそおまえが見た夢の意味だった。運命はおまえを王にした。けれども永遠の生命を、あたえてはくれなかったのだ。
『ギルガメシュ叙事詩』
【ギルガメシュ伝説】
『ギルガメシュ叙事詩』は、シュメールの英雄ギルガメシュにまつわる一連の叙事詩をまとめたもので世界最古の文学作品とされる。ギルガメシュは紀元前2700年ごろに実在したウルク王だが、早くから神話的人物としてシュメールの伝承に登場するようになった。さまざまな粘土板に記されていたそれらの詩を整理して、まとめられたのがこの物語である。
伝説によると、ギルガメシュはいまから4000年以上前にウルクの王となった。ところがしだいに暴君となっていったため、ウルクの住民たちは神々にギルガメシュをこらしめてほしいと願いでる。そこで神々はエンキドゥという野人をつくり、ギルガメシュと対決させることにした。それを聞いたギルガメシュはエンキドゥのもとに娼婦を送り、ウルクの町におびきよせる。町にやってきたエンキドゥとギルガメシュは戦うが、まもなくふたりのあいだに友情が芽ばえ、力を合わせて森にすむ怪物フンババを倒しに出かける。
一方、愛の女神イシュタルはギルガメシュのそうした姿に夢中になっていたが、ギルガメシュはイシュタルを拒絶し、エンキドゥもイシュタルの気まぐれな態度を非難する。イシュタルと神々はそうしたエンキドゥに腹をたて、彼を殺してしまう。友人を失ったギルガメシュは、人の命のはかなさを思い知らされ、永遠の生命をあたえてくれるという泉を求めて、大洪水の唯一の生存者ウトナピシュティムをさがしに旅に出る。その途中、ギルガメシュはシドリという女性に出会い、質問される。
「なぜあなたは永遠の生命の泉をさがしているのですか。人は死ぬ運命にあると神々がおっしゃっているではありませんか。昼も夜も楽しみなさい。それもまた人間の運命なのだから」
しかし、その後もギルガメシュは旅をつづけ、ついにウトナピシュティムをさがしあてる。だが結局、永遠の生命は手に入れることは不可能であることに気づき、ウルクにひき返して、死を受け入れたのだった。
このページすべて【図説 世界の歴史(1) J.M.ロバーツ 著 創元社】より引用

獅子と戦うギルガメシュをあらわすアッシリア時代のレリーフ(浮き彫り)。紀元前8世紀。ジェラバード出土。
本資料もすべて【図説 世界の歴史(1) J.M.ロバーツ 著 創元社】より引用。ただし左図版は、オリジナルを元にコンピュータで処理してCG化したものを使用。