エジプトでは農作物の余剰生産に支えられて、古代世界では類を見ない巨大な建造物が次々に建設されていきました。個人の家や小屋は昔ながらの日乾レンガづくりでしたが、王宮や王墓、王の記念建造物などはナイル川流域から豊富に産出される石でつくられました。日乾レンガは時がくれば崩れ去ってしまいますが、石の建物は半永久的に存在するからです。
しかしこの石造建築の技術は、時を重ねてもそれほど発展しませんでした。エジプト人は石柱をはじめてつくったことでも知られていますが、エジプト建築の最大の特徴は卓越した技術でも建築そのものでもなく、膨大な作業員を統率するすぐれた管理システムにあったようです。偉大なファラオたちはまさに空前絶後の規模で大量の労働力を動員することに成功しました。現代の私たちを魅了してやまない巨大建造物の数々は、まだ巻き上げ機も滑車もない時代に、梃子やソリといった初歩的な道具を使って、巨大なスロープの上に押し上げていくことによってつくられたものなのです。
ピラミッドがはじめてつくられたのは第三王朝の時代でした。なかでも有名なのがメンフィス近郊のサッカラにあるピラミッド群でしょう。ここにある「階段ピラミッド」は、記録にのこる最古の建築家であり王の秘書でもあったイムへテプによって建設されました。イムへテプは天文学者、神官、賢者として崇められただけでなく、その作品があまりにもみごとだったので、のちにファラオ以外ではただひとり、神として神格化されることになりました。
石造建築物をはじめてつくったのが、このイムへテプとされます。高さ60メートルのピラミッドに驚嘆した人びとが、それをつくったイムへテプに神のような力を感じたとしても不思議ではありません。
それから約1世紀後には1個が15トンもある石材を使って、クフ王のピラミッドが建造されました。クフ王のピラミッドは四辺が正確に東西南北をさしており、しかも約230メートルにおよぶ各辺の長さには20センチしかズレがありません。まさに驚異というほかない正確さで建てられているのです。のちにピラミッドが世界七不思議のひとつに数えられたのも、さらにはその七つのうちでピラミッドだけが今日まで存在しているのも、ある意味では当然の結果なのかもしれません。ピラミッドの建設には、偉大なるファラオの威信がかけられていたのですから。